背景
2000年代後半にファクター投資が一般的になるずっと以前から、多くの投資家が既に個別のファクタープレミアムを活用していました。バリュー戦略はその好例です。バリュー効果とは、例えば企業の株価純資産倍率(PBR)で測定されるような、企業の本来価値に対して割安な銘柄が、市場を上回るリターンを達成する傾向のことであり、この傾向は実証研究により裏打ちされています。
数十年にわたり、数々の著名な投資家が、証券取引において本来価値を下回る価格で購入することを提唱しており、伝統的なアクティブ運用の運用機関の多くがいわゆるバリュー戦略を提供してきました。1930年代には既に、コロンビア大学ビジネススクールのベンジャミン・グレアム氏とデイビッド・ドッド氏が、割安株への投資を提唱していました1 。後にウォーレン・バフェット氏は、これとほぼ同様の原理に基づいた投資哲学で大きな成功を収め、有名になりました。
こうした環境の中、最近では多くの投資家が、バリューやモメンタムといった特定のファクタープレミアム、あるいは特定のファクターの組み合わせへのエクスポージャーを得る体系的かつ運用費用効率の高い方法として、ファクター投資に目を向け始めています。実際、FTSEラッセルがアセットオーナーを対象に先頃行った調査によると、特定のファクターのエクスポージャーを得ることは、ファクターに基づく投資戦略を検討するきっかけとなった投資目標の第5位に入っています。
科学的根拠
当シリーズの以前の記事でも論じているように、数十年に及ぶ学術研究の結果、十分に検証された少数のファクタープレミアムにフォーカスした運用戦略が、統計的にも経済的にも有意で特異なリターンをもたらすことが分かっています。これらのファクタープレミアムは、互いに並行して存在する明白な現象であり、複数の市場や資産クラスにわたって存在が確認されています2。
したがって、異なるファクタープレミアムを追求すれば、通常、異なる投資成果につながります。これは図表1に示されています。図表は、MSCIワールド・バリュー指数、MSCIワールド・モメンタム指数、MSCIワールド最小分散指数、MSCIワールド・クオリティ指数という広く知られた株式指数のデータを基に、グローバル株式市場に投資する一般的な4つの単一ファクター戦略の、1988年6月から2015年12月までの期間におけるシャープレシオとインフォメーションレシオを示しています。
出所: Blitz, Huij, Lansdorp and van Vliet、「Efficient factor investing strategies(効率的なファクター投資戦略)」、ロベコ調査報告書、2016年。超過収益は対MSCIワールド指数、期間は1988年6月~2015年12月。リターンは米ドルベース。一般的なファクター戦略として、MSCIバリュー指数、MSCI モメンタム指数、MSCI最小分散指数、MSCIクオリティ指数を使用。投資の価値は変動します。過去のリターンは将来のリターンを保証するものではありません。
異なる単一ファクター戦略間の相違は、長期的に表れるだけではありません。短期的に見ても、あるファクタープレミアムのパフォーマンスが、市場に対し、あるいは他のファクタープレミアムに対して、ある期間劣後したり上回ったりする場合があります。こうした期間が数年間継続することもあります。
これら全ての調査結果から、異なるファクターは時間の経過とともにそれぞれ別の動きを見せることが分かります。したがって、各投資家のニーズや優先順位に応じて各ファクターへのエクスポージャーを個別に検討し、単一ファクター戦略を用いて配分を行うのは合理的と言えます。例えば、明確にインカムを選好する投資家は、通常高い配当をもたらすバリュー戦略や低ボラティリティ戦略への配分を高めることが適切かもしれません。一方で、売買回転率を抑えることを重視する投資家は、ポートフォリオの高回転率を招く傾向のあるモメンタムへの配分を控えることを選択するかもしれません。
その他の検討事項
しかし、投資家が、各々の戦略上の志向に応じて個々のファクターへのエクスポージャーを監視し調整することは、理論上は単純な作業のように思われますが、実践においては非常に多くのことを考慮する必要があります。このテーマに関する学術文献は豊富にあり、定量的なファクターへのエクスポージャーの測定やパフォーマンスの要因分析のために、ロベコ独自のツールをはじめ、多くのツールが市場に出回っています。
それにもかかわらず、これらファクターへのエクスポージャーを正確に測定することは、多くの投資家にとって依然として容易でない課題となっています。特に、当分野に精通していない投資家は必要なリソースが不足していることが多く、難しい課題と言えます。多くの学者や、実務としてこれを実践している専門家は、設計に不備のあるモデルや不適切なモデルの危険性について警鐘を鳴らしています3 。
適切な測定ツールを使っていない投資家は、例えば、ある特定のファクターに対するシステマティック・エクスポージャーを、ポートフォリオ・マネジャーによるアクティブ運用によって生み出されたアルファと混同してしまうかもしれません。こうした状況を背景に、ファクターの組み合わせを予め設定した (マルチファクターの)ソリューションを提案する運用機関が増えています。
特定のファクターへのエクスポージャーを求める投資家にとって、もう1つ大きな落とし穴となり得るのは、ファクター同士の相互作用、場合によっては相互の打ち消し合いが生じることによる影響です。一般的な単一ファクター戦略は、通常、これらの相互作用を考慮していないため、最適でないファクター・エクスポージャーをもたらす結果となります。例えば、バリュー戦略が結果的に、モメンタムに対しては大幅にマイナスのエクスポージャーとなっていた、といったケースです4 。これは、他の実証されたファクターへのマイナスのエクスポージャーを防ぐために、ファクター定義を改良して再定義したファクターを使用する効率的なファクター戦略が必要であることを裏付けています。
脚注
1 Benjamin Graham and David Dodd、 「Security analysis’(証券分析)」 、1934年
2 例えば、ロベコが先頃出版した研究論文集:G.Baltussen, M.Martens, P.van Vliet、「Quant Allocation‐Collected Robeco Articles(クオンツ・アロケーション-ロベコ記事集)」(2018年)を参照のこと。
3 例えば、Israel R. and Ross A.、「Measuring Factor Exposures: Uses and Abuses,(ファクター・エクスポージャーの測定:活用と誤用)」、The Journal of Alternative Investments(2017年)を参照のこと。
4 詳細については、例えば、Blitz D. and Vidojevic M.、「‘The Characteristics of Factor Investing(ファクター投資の特性)」、ロベコ調査報告書(2018年)を参照のこと。
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