ロベコは年初から一貫して、金融政策の引き締めに焦点を当てつつ、中央銀行が直面するジレンマ(「チェックメイト(Czech mate)に陥る」)とその後のインフレ対応を優先する政策判断(「インフレ・ゲーム」)について論じてきました。3月以降、この先数四半期の間に景気後退に陥るシナリオについて、リスクというより確率の問題であると指摘してきましたが、最近では市場のコンセンサスもこの見解に収斂しつつあります。
もっとも、一部の市場において景気後退シナリオが織り込まれる一方で、そうではない市場も見受けられます。今年に入って債券市場では、ボラティリティが歴史的に高い水準に達した結果、これまでの位置関係が瓦解することとなり、多くの場合、市場間、銘柄間のスプレッドは例外的な水準に達し、イールドカーブも通常とは異なる形状に変化しています(同時に投資機会とも捉えられます)。前回の四半期アウトルック「ツイン・ピークス」では、債券市場における今後の相互作用について、命題を提示しました。その中で、国債利回りが低下する一方で、クレジット・スプレッドに関しては、今年度全体を通して見られた拡大トレンドが復活すると予想しました。この見通しに変化はありません。
10月以降、大方の国債市場では、利回りがようやく低下するようになりました。一部の市場では、利回りがピークに達した模様です。とは言え、市場が不安定化することも考えられ、また、米国経済に関する先行指標と遅行指標の間には、依然として大きな隔たりが存在しています。すべての市場において利回りがピークに達したとは、想定するべきではありません。
先行指標への収斂
景気後退入りを予想するロベコの見解がコンセンサスになったようですが、米財務長官や米国の主要な投資銀行を始めとして、主要な当事者の中には否定的な見解も見受けられます。また、景気後退入りを予想する当事者のほとんどは、明確な根拠を示すことなく、経済の緩やかな縮小を想定しています。
議論が収束しない要因として、購買担当者景気指数(PMI)や住宅関連データ、米供給管理協会(ISM)新規受注指数、さらにはISM景況感指数を始めとする、先行指標と一致指標が景気後退入りを示唆しているのに対して、労働市場やインフレに代表される遅行指標が、異なるメッセージを発していることが挙げられます。遅行指標が先行指標に収斂する過程で、市場価格も変化すると見られ、これは時間の問題であるとロベコでは考えています。
米国の労働市場では、需給の逼迫感が依然として残存していますが、弱まりつつあることは明らかです。非農業部門雇用者数は、4カ月連続で30万人を下回りました。これは、2021年の平均(56万人強)と2022年上期の平均(44万人強)を下回る水準になります。さらに、低調な家計調査の結果が、事業所調査の結果の悪化につながる恐れもあります。
欧州は先行
ロベコは基本シナリオとして、エネルギー関連の脆弱性や消費者が被る実質ベースでのダメージに起因して、欧州と英国はハードランディング型の景気後退に陥ると想定していますが、この2つの地域の方が景気後退に関する議論ははるかに先行しています。米国市場ではまだその段階にありませんが、欧州と英国の一部のスプレッド関連商品において景気後退シナリオが織り込まれるようになり、これまでの数週間において魅力的な投資機会が浮上していることも、おそらく意外なことではありません。
欧州市場と英国市場の動向は、経済が停滞する環境において、まずは国債市場、次にクレジット市場という順番で、景気後退が魅力的な債券投資の機会を提供する、という好材料を想起させるものです。10月に利回りがピークに達する直前に強調したように、年初来の債券のトータルリターンは、長年にわたって見られなかったような水準に落ち込んでいます。一方、来年には反転する可能性があり、投資のタイミングによっては、いくつかの質の高い債券のカテゴリーにおいて、2桁のリターンが期待されます。
金利戦略
今後予想される景気後退は、インフレが政策目標を大幅に上回る状況と重なる可能性が高いという点で、過去35年間の景気後退とは異なります。今世紀に入ってからも、(2008年夏のように)ヘッドライン(総合)の消費者物価指数(CPI)が高い水準において景気後退入りした事例は存在しますが、今回は違いが相当大きいため、1970年代頃の景気後退局面における動向や価格の推移の方が、関連性が高いでしょう。
しかしながら、1968~82年の4回の景気後退局面においても、債券利回りは大幅に低下しています。定義上、景気後退とは、実質GDPのマイナス成長(前四半期比)、最終的な利下げ、インフレの循環的な低下を意味します。足元の価格動向を踏まえると、原油価格は来年3月までに前年比マイナスとなる見通しです。米国の商品価格については、上昇率が6月までにゼロ近辺まで低下すると予想しています。また、独自の分析に基づき、賃料の上昇さえも来年年央に向けて低下に向かうと見ています。インフレの長期的な動向はさておき、2023年は循環的なパターンが支配的となり、質の高い国債のリターンはプラスに転じる見通しです。
ポートフォリオ構築の観点から、また、今後の市場の改善をどのようにとらえるべきかという観点から、イールドカーブ戦略のメリットとデュレーション戦略のメリットを引き続き区別して考えています。
イールドカーブ戦略とデュレーション戦略
以前にも言及したように、大規模なデュレーション・トレードから収益を上げるためには、経済成長の短期見通しとインフレの長期見通しという、2つの要素を正確に判断する必要があります。一方で、イールドカーブ戦略においては、短期見通しが大きな役割を果たします(インフレ・プレミアムは概ねイールドカーブ全体に存在し、金利とインフレの長期的な水準はある程度は政策金利に織り込まれていることが理由)。
ここでは、イールドカーブ・トレードを成功させる際の課題を軽視しているわけではありません(ポジション構築のタイミングを正確に見極めるのは容易なことではありません)。そうではなく、債券型資産のバリュエーションは、循環的な平均回帰(イールドカーブ)の影響が支配的であって、長期的な不確実性(デュレーション)から比較的遮断される場合に、見極めやすいと考えているのです。短期的な経済成長見通しに関するデータについては、可視性が高いと見ていますが、長期的なインフレ見通しに関するさまざまなシナリオについては、謙虚な姿勢で検討しています。
米国債市場(および他のいくつかの国債市場)において、逆イールド化の動きが過去40年間で最も進んでいることは、幅広く認識されています。インフレの高進を受けて金融政策対応が必要となり、中立金利を上回る水準まで利上げが行われている状況を踏まえると、これは合理的な動きであると考えられます。その結果、1968~82年にも観察されたように、逆イールド化が起きやすい状況につながっています。しかしながら、その後は循環的な平均回帰が生じて、順イールドの形状に戻るのが常であり、今回のパターンが異なると考える理由はありません。経済成長が足踏み状態となり、2023年後半から24年にかけて、中央銀行がその使命の1つである経済成長に対応する必要が生じた場合には、なおさらのことです。
市場のセグメンテーションとクロス・マーケットの投資機会
ロベコがデュレーション戦略よりも選好するもう1つの金利戦略は、クロス・マーケットに関する戦略です。足元の投資機会に関する詳細は、金利戦略のセクションをご覧下さい。要約すると、債券市場では、投資哲学の観点から、すべての市場参加者が(例えば)米国市場対比でオーストラリア市場を観察できるわけではありません。また、すべての市場参加者が、(例えば)スウェーデン市場で取引するために必要な流動性と機動性を備えているわけではありません。
さらに、すべての市場参加者が、カナダなどのAAA/AA格の市場対比で、メキシコなどの新興国の現地通貨建て債券を柔軟に取引するマンデートを備えているわけではありません。2020~21年に中央銀行が市場に介入し、その後2022年に入って債券市場がボラティリティの上昇に見舞われた結果、多くの場合、クロス・マーケットの位置関係は最近20~30年間で最も極端な状況となり、魅力的な投資機会につながっています。
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