気候変動危機に効果的に対応するには、2050年までに世界経済を脱炭素化するための焦点を絞った対策が必要です。その際、対策が有効かどうか見極めるため、そして規制強化が必要かどうかを浮き彫りにするために、進捗状況の追跡が極めて重要になります。
進捗状況の追跡は、投資家にとっても重要です。社債発行体が脱炭素化目標や炭素排出量関連の独自の戦略的目標を達成しているかどうかモニタリングすることは、パリ協定の目標達成に向けて成功する企業と不成功の危機にある企業の見極めにおいて非常に有益です。そのためには、排出量削減経路(道筋)と、この道筋通りに進んでいるかを示す信頼性の高い情報が必要になります。
また、一部のセクターにおいては、脱炭素化の達成がスコープ3排出量の削減に大きく左右されることも問題を複雑にしています。スコープ3とは、生産工程からではなく、現在と将来の消費利用によって発生する排出量です。言うまでもなく、スコープ3排出量の計測は容易でなく、質の高いフォワードルッキングな(将来を考慮した)データを入手する技量が重要になります。
さらには、セクターによって、排出量削減目標の達成に必要なテクノロジーが異なり、移行に伴うコスト面の影響、リスク、機会が異なることも、問題を複雑化しています。そのような中、「科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi)」や「低炭素経済推進イニシアティブ(TPI)」などの組織が主導する形で、多くに支持されるアプローチとなったのが、セクター別の脱炭素化経路を策定する手法です。
ロベコは2020年に、独自のセクター別脱炭素化経路のモデル開発に着手しました。企業が事業活動や商品を排出量ネットゼロ目標に適合させる過程で、各企業や各セクターが直面するリスク、課題、機会を、運用チームが評価できるよう、必要な情報を提供することを狙いとしていました。
サステナブル投資の前進
ロベコが開発した「セクター別脱炭素化経路(SDP)」評価手法は、各社の炭素排出量削減目標がセクター内でどの位置にあるかを測定します。また、低排出や排出ゼロのテクノロジーに必要な投資、規制当局による罰則の可能性、その他セクター特有の評価基準を特定します。
SDP評価手法はロベコの先駆的イノベーションの中でも最新のツールであり、客観的なデータ、精緻な分析、一貫性のある枠組みを通じて、サステナブル投資をさらに前推させ、実社会へのインパクトを実現することを目指します。
運用チーム、サステナブル投資(SI)リサーチ・チーム、アクティブオーナーシップ・チームは、SDPのアウトプットを用いて、排出量ネットゼロへの移行において避けられないコストとリスクを管理する準備態勢が進んでいる企業と後れを取っている企業を、セクターごとに見極めます。
ロベコの気候・生物多様性ストラテジストのLucian Peppelenbos は、次のように述べています。「ネットゼロ経済への移行は長く、険しい、茨の道になると予想されます。移行に伴うリスクを管理し機会を捉えるために、投資家はフォワードルッキングな指標を必要としています。ロベコのSDP評価手法を用いることによって、投資家は気候変動分析における『究極の理想』に一歩近づくことができます。」
SDP評価手法の仕組み
ロベコのSDP評価手法では、各企業を3つの観点から評価します。
第1の要素として、SIリサーチ・チームのアナリストは、企業の開示情報や推計値から成る過去データおよびフォワードルッキングなデータを用いて、各企業の2050年までの排出削減経路の見通しを策定します。
企業の相対的な取り組み状況を評価するために、この排出削減経路見通しを、科学的にモデル化されたセクター別の排出削減軌道(ベンチマーク)と比較します。各社の取り組み状況は、脱炭素化スコア(0から100の数値、100が最高スコア)の形で表わされます。所属セクターの削減経路に近い軌道となるほど、スコアは高くなります。
タイミングも重視されます。短中期的な排出削減の方が長期的な削減よりも重視されるため、早期に排出原単位の削減を計画する企業のスコアはその分高くなります。
第2の要素として、自社目標およびベンチマークの排出量削減目標を達成することへの、各企業の信頼性と能力を評価します。SIアナリストはこのため、企業が開示した脱炭素化経路を実現するのに必要となる投資水準(設備投資および事業運営費)を算出します。また、これを、炭素削減技術に対する当該企業の現在の設備投資額および設備投資計画と比較します(自動車セクターにおけるバッテリー式電気自動車の生産、石油・ガス企業におけるクリーン再生可能エネルギーの発電など)。設備投資額が著しく不足している企業については、将来的に排出を削減し、自社目標や規制当局による排出量削減目標を達成する意思や能力があるのか疑念が生じることとなります。
第3の要素として、規制当局からの潜在的な課徴金、座礁資産の発生、需要の減退が財務に与える影響について評価します。炭素集約型セクターにおいては、このいずれもが深刻な脅威となります。
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信用力評価に極めて重要な情報を提供
ロベコのグローバル・クレジット責任者のTaeke Wiersmaは、発行体の信用力評価において、SDPモデルから得られる知見は極めて重要となると確信しています。企業にとって、自社の排出量に関連する税金やコストの増加や、ネットゼロ目標に則した形で事業を変革するための設備投資や事業運営費が、キャッシュフローの悪化要因となります。
また、財務上の波及的影響も避けられません。事業活動や製品の脱炭素化のために必要な改革に消極的な企業や、実行能力に欠ける企業は、座礁資産や規制当局による厳しい課徴金の発生などの形で、ペナルティを受けることになります。
Taeke Wiersmaは、次のように述べています。「企業に身を隠す場所はありません。移行を進める以外ないのです。だからこそ、ロベコの投資分析において、各発行体がSDP曲線のどこに位置付けられるか確認することが重要です。企業は、あるべき削減経路からかけ離れるほど規制当局からの対応が厳しくなる可能性が高まり、生産工程への投資や高コストの改革を余儀なくされるでしょう。」
SDP評価手法を広範なセクターへと展開
SDPモデルの導入を開始し、その対象を全セクターへと拡大する作業は、骨の折れるプロセスになりました。学術研究や業界のリサーチを研究、参照し、利用可能なデータとベンチマークを見定め、予測モデルを構築して必要な企業情報を収集するといった作業が必要となりました。
ロベコのSIリサーチ・チームのSIアナリストであるFarahnaz Pashaei Kamali は、次のように述べています。「石油・ガス、自動車、食肉生産、鉄鋼、セメント、アルミニウム製造、不動産、発電をはじめとする、炭素集約度が特に高いセクターから作業を開始しました。」
「各セクターのベンチマークを確立する作業の出発点として、低炭素経済推進イニシアティブ(TPI)の脱炭素化シナリオを採用しました。これに学術研究からの知見を取り入れることにより、各セクターにおけるテクノロジー、コスト、カーボン・バジェット(炭素予算)の見極め、どのセクターで排出量スコープ1~3を対象とするか等の評価を行いました。」
「セクター・ベンチマークに対する各社の相対パフォーマンスを評価することにした意図は、企業が開示するカーボン・フットプリントなどの過去データのみに依存せず、フォワードルッキングな指標を把握するためでした。事業活動の脱炭素化に関する企業の目標やコミットメントを確認することでこれを実現します。」
当手法の第2の要素である、目標の信頼性の評価において、SIアナリストは計画に伴うコストを分析します。「これによって、企業のコミットメントを大局的に評価することができます。企業は、脱炭素化へのコミットメントをSBTiに報告し、セクター別経路との整合性について認証を受けることが可能です。しかし投資家の立場では、当該企業にこうしたコミットメントを実行する能力と手段があるのかについても検証する必要があります。」
現行と将来の規制措置も追加的なコスト要因となるものであり、推計する必要があります。Pashaei Kamaliは次のように語っています。「各セクターに適用される政策や規制を確認し、各種税金や排出権取引制度へのエクスポージャーを考慮に入れ、それらが企業の将来の利益に与える影響を推計します。例えば、炭素税は既にコストとして大きな負担となっていますが、炭素排出に関する規制が強化されれば、コストはさらに増加する可能性があります。」
さらに、石油ガス・セクターを例に挙げ、次のように続けました。「各国政府がネットゼロの公約を果たすために高排出企業に注目を移すなかで、需要の激減に起因する収入減が極めて大きく、それと比較すると課徴金はごくわずかと言えましょう。石油ガス・セクターにおいては、需要の減少や固定資産(工場、不動産、設備など)の評価減が将来の企業価値に与える経済的影響を把握することが、SDP評価手法の重要な役割となります。」
エンゲージメントの強力なツール
SDP評価手法は、発行体が直面しうるリスクと機会をクレジット・アナリストとポートフォリオ・マネジャーが評価するための重要なツールとなります。また、当手法が自動化されれば、アナリストはSDPモデルを用いて、幅広い運用戦略の投資ユニバースや資産クラスを対象に、企業の短期、中期、長期の脱炭素化パフォーマンスを見定め、評価できるようになります。
さらに、こうしたきめ細かい分析の結果、ロベコのエンゲージメント・スペシャリストは、各社の脱炭素化パフォーマンス(競合他社対比)に関する客観的かつ具体的な定量データを得ることができます。こうしたデータは、対応に後れが見られる企業とのエンゲージメント活動について、優先順位を決め、推進、加速する強力な手段となります。
Pashaei Kamaliは、欧州の多国籍石油・ガス企業との気候変動移行方針に関するエンゲージメントに、チームの一員として携わったときのことを次のように語りました。「同社が、設備投資へのコミットメントの信頼性の評価など、ロベコの分析の深さと詳細さに驚いているのは明らかでした。モデルの内容についてより深い洞察を提供したことにより、同社は投資計画のさまざまな側面を明確にすることができました。」
実際、脱炭素化評価手法の導入は、運用チームに所属するクレジット・アナリストやポートフォリオ・マネジャー、エンゲージメント・スペシャリスト、SIリサーチ・チームなど、ロベコの複数の専門分野を跨いだ連携を通じて生み出された、強力な成果の一例と言えるでしょう。
ロベコのエンゲージメント・スペシャリストであるCristina Cedillo Torresは、次のように述べています。「これらチームは相互補完的にそれぞれの強みを有し、継続的に情報を共有しています。このような形で協力することにより、エンゲージメント・プロセスから最大限の成果を生むことができると考えます。先頃の(欧州の多国籍電力・ガス製造・販売企業との)エンゲージメントの事例では、特定のテクノロジーのコスト曲線と設備投資への影響について、SIリサーチャーが掘り下げて追究しました。この情報は、運用チームにとっても、考慮すべき重要な洞察になります。ここでの私の役割は、ESGの課題に対する同社のフォワードルッキングな戦略を評価することでした。」
ロベコは既に、高排出セクターの大部分について独自のセクター別脱炭素化経路を開発済みであり、現在も作業を続けています。全セクターについてこれが完了すれば、ロベコの投資対象企業の大多数のSDP評価が可能になります。最終的には、投資ポートフォリオにSDPスコアを付与することが可能になります。
Taeke Wiersmaは、次のように述べています。「ファンダメンタルズ・クレジット分析において、これは非常に重要な要素となります。このリサーチ・プロセスは始まったばかりであり、今後さらに多くの成果が見込まれています。」
当記事は、より長編のレポート「クレジット投資を通じて持続可能な未来に貢献する4つの方法(Four ways credit investors can contribute to a more sustainable future)」からの抜粋です。
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