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17-02-2025 · SI Debate

SIディベート:ネットゼロに向けた道筋を堅持

12月以降、北米の銀行や資産運用会社がネットゼロに向けた協働イニシアティブから相次いで脱退しています。これを受けて、「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブ(NZAM)」は、活動の一時停止を発表するとともに、同イニシアティブが「新たなグローバル環境の中で目的に確実に適合し続ける」ための見直しを行っています。投資家は現在、次に何が起こるのか、今後どこに向かうのかを自らに問うています。金融業界は依然としてネットゼロ達成にコミットしているものの、短期的には政策の不確実性が高まっていると見ています。

    執筆者

  • Carola van Lamoen - Head of Sustainable Investing

    Carola van Lamoen

    Head of Sustainable Investing

  • Lucian Peppelenbos - 気候ストラテジスト

    Lucian Peppelenbos

    気候ストラテジスト

まとめ

  1. 米議会による書簡がネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブ活動停止の引き金に

  2. 投資家はソリューション開発は可能だが、道を切り開くのは政府の役割

  3. ほとんどの学習曲線において、学びの前に幻滅が訪れる

引き金

過去数週間のこうした動きの主な引き金となったのは、12月20日に米国の資産運用会社60社に送られた書簡でした。この書簡は米国下院司法委員会が送付したもので、送付先企業がネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブ(NZAM)やエンゲージメントの協働イニシアティブである「Climate Action 100+」に参加しているか調査するものでした。

委員会は、こうしたイニシアティブへの参加を反トラスト法および受託者責任の潜在的な違反と見なしています1 。同委員会が進めている調査では、NZAMとClimate Action100+は、「左翼の環境活動家と大手金融機関による気候カルテル」であり、「共謀して米国企業に脱炭素化とネットゼロ達成を強制した」と評価されています 2

同様の政治的圧力により、ウォール街の6大銀行が銀行版のネットゼロ・イニシアティブから離脱したり、連邦準備制度理事会(FRB)が気候変動への対応に焦点を当てた中央銀行のグローバルネットワークである「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」からの脱退を決めたり、といった最近の動きにつながっています。

環境の変化

ロベコでは、NZAMが発表した見直しの実施を歓迎しています。これにより、NZAMは2030年に向けた戦略を強化することができます。米国だけでなく、世界的に、政策を取り巻く環境は、投資家、企業、政府が大挙してネットゼロ達成を公約した2020~21年とは大きく異なります。これらのネットゼロの公約を足し合わせると、世界のGDPの93%、世界の排出量の88%に相当する計算になります 3

概して、政府は公約を果たしていません。英国のように目覚ましい進歩を遂げている国もあるものの、現在の各国政府の政策水準のままでは、世界の気温上昇は2.9度に達する見通しです4 。近年の気候変動締約国会議(COP)は有意義な進展を示せず、EUのような先行する地域はグリーン化への意欲を減退させており、保護貿易主義の急激な台頭がグリーンテクノロジーの採用を抑え込む結果となっています。

一方、同期間に、ネットゼロ達成を公約した投資家が順調な進捗を示していることは注目に値します。ロベコを含む大多数の投資家は、ポートフォリオの脱炭素化につい て、40%以上という目覚ましい数字を報告しています5 。しかし、これに、実体経済の排出削減や気候政策における意欲の高まりが連動していないことは明らかです。

このような背景の下、しばし立ち止まって、社会がネットゼロへと向かう道のりにおける投資家の役割について考えてみましょう。

膨らんだ期待

ネットゼロへの取り組みは、出だしでつまづいたと考えています。2021年にスコットランドで開催されたCOP26でのグラスゴー金融同盟(GFANZ)の発足は、ネットゼロへの移行のために振り向けられると期待される民間資金が130兆米ドルに達した分水嶺として歓迎されました。これにより、投資家が社会全体を1.5°Cシナリオへと推し進めるという期待が膨らみました。政府が果たすべき重要な役割はあまり注目されませんでした。

気候変動を効果的に緩和するには、政府がミッションを掲げて課題に立ち向かう必要があります6 。ジョン・F・ケネディ大統領が掲げた人類初の月面着陸というミッションは、何十年にもわたって米国企業の競争優位性を支える技術を生み出すことにつながりました。インターネットとデジタル化、そしてマグニフィセント・セブンの成功は、米国国防総省が資金提供した発明が直接的な起源となっているのです。近年では、中国が国家による起業家精神の推進により、再生可能エネルギー技術と電気自動車で世界を支配しようとしています。

政府による適切なインセンティブがあれば、市場はイノベーションと拡張性のあるソリューションを生み出すため、無限の創意工夫を発揮するのです。ネットゼロへの移行は市場に掛かっています。投資家と産業界が、ソリューションを生み出し、展開し、規模を拡大しなければなりません。しかし、道を切り開くのは政府です。例えば、EUではSFDRやCSRD7 のような規制を伴うグリーン・アジェンダが、投資家や企業のネットゼロ計画の重要な基盤となっています。

学習曲線

ネットゼロへの取り組みは、他の取り組みのほとんどが辿る学習曲線と同じパターンを辿るだろうと考えます。当初は期待が膨らみピークに達し、その後に幻滅が訪れ、やがて生産性向上に向けた学びの坂をのぼっていくことになります 8

ロベコの調査やお客様とのやり取りからは、ネットゼロ達成を公約した投資家(市場全体の約40%)9 は、長期的観点をもってその公約を堅持していることが分かりました。科学的根拠に変わりはないため、そうした投資家は当初の道筋に沿って進んでいます。変化や進化を遂げるのは戦術やツールであり、これが学習曲線における学びの坂となります。例えば、当初ポートフォリオの脱炭素化に注目が集中したときには、明確な限界があったと言えます。現在では、フォワードルッキングな(将来を見据えた)気候変動分析に基づくトランジションファイナンスのアプローチの広がりによって、ネットゼロへの取り組みは増幅、強化されています。

幻滅の段階があまり長くかからないことを願うばかりです。再生可能エネルギーのブームは、ネットゼロへの取り組みが実際に機能することを示しています。経済成長と排出量増加の切り離しに成功する国がますます増え10、世界全体の絶対排出量が減少し始める転換点となる水準に近づいています。残念ながら、2024年の選挙のスーパーサイクル以降、世界の地政学的情勢は分断主義とナショナリズムという性質を帯び、気候変動の緩和には好ましくないシナリオとなっています。

気候変動対策の必要性は高まる一方です。地球の気温は上昇し続け、2024年には1.5°Cという閾値を超え、気候変動の物理的影響に苦しむ人が増えています。これらの気候リスクを投資に統合することで、より豊富な情報を適切に反映した投資判断が可能になります。

ロベコでは引き続き、ネットゼロへの移行を注意深く推し進め、リスクと機会の双方を管理し、お客様の利益と長期的な価値創造に取り組んでいきます。

脚注

1 https://judiciary.house.gov/media/press-releases/judiciary-committee-probes-60-companies-over-esg-ties
2 米国下院司法委員会(2024年)、「Climate control: exposing the decarbonization collusion in ESG investing( 気候変動対策:ESG投資における脱炭素化の共謀を暴く)」、iページ。
3 https://zerotracker.net/
4 UNEP排出ギャップ報告書2024
5 2023年末までに、ロベコは2020年を基準として43.7%の脱炭素化を達成しました。
6 企業家としての国家に関するマリアナ・マッツカートの著作を参照
7 サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)と企業サステナビリティ報告指令(CSRD)
8 例:https://en.wikipedia.org/wiki/Gartner_hype_cycle
9 ロベコ2024年年次世界気候調査。数ヶ月以内に2025年版を発表予定。
10 https://ourworldindata.org/co2-gdp-decoupling を参照

SIディベート

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